背景
肺がんの疫学と現状
最新のがん統計によると日本人における肺がんは、年間11万人以上が罹患し、7万人以上が亡くなり、その罹患者数は全がん種の中で3位、死亡者数においては第1位となっている。また、将来推計データにおいても、今後、肺がん罹患は増加を続け、肺がん死亡が減少に転じるのは2035年以降と予想されており、未だ日本人にとって罹患・死亡の観点からも厳しい病であることに変わりはない。
国立がんセンターがん情報サービス-https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html
肺がん医療の進歩
2000年初頭まで、特に進行例(StageIII/IV・再発)を対象とした当時の標準的プラチナ製剤を基軸にした併用療法においてもそのMST(生存期間中央値)は12か月前後と、患者にとっても、医療者にとっても満足のいくものではなかった。
一方で、手術療法、放射線療法の進歩と共に、2002年以降、ゲフィティニブなど分子標的薬剤の登場により、特定の遺伝子(EGFR)異常の患者に高い効果を有すること、同様にALK、ROS1、BRAFといった遺伝子異常に対する薬剤開発とコンパニオン診断薬の普及は、肺がん医療の成績向上に大きく寄与した。
更に近年では、新たな作用機序を有する免疫チェックポイント阻害剤の登場により、遺伝子変異を有することのない肺がん患者の選択肢ともなり、これらは日本肺癌学会発刊の「肺癌診療ガイドライン2018年版」に記載されるに至っている。
日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン-https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3
肺がん領域を取り巻く環境の変化
これまで、長期生存が難しいとされていた肺がん領域においては、肺がんに特化した患者会、支援団体は存在していなかったが、外科治療、放射線治療、化学療法やそれらを併用する集学的治療の進歩、支持療法の進歩、更には分子標的薬剤、免疫チェックポイント阻害剤の様々な新薬の登場により、明らかに長期生存にたどり着く患者の増加から、全国各地に肺がん患者会が設立され、2015年11月には、これら10を超える患者会が連携する日本肺がん患者連絡会が発足した。
日本肺がん患者連絡会設立趣旨-http://www.renrakukaigi.net/r-dantai.html
海外のアドボカシー領域の動向
前述の進歩の経緯もあり、肺という臓器に発生するがんといえども、その発生要因や治療法が異なることから、米国では肺がん全体をテーマに掲げた患者団体・支援団体のみならず、近年ではEGFR変異を有する患者のコミュニティや、非小細胞肺がんの5%未満であろうALK、ROS-1、BRAFといった遺伝子変異を有するコミュニティが存在し、インターネット、SNSの普及の影響もあり、既に国を超えた活動の活発化の兆しを見せている。
米国における代表的肺がん支援団体-https://lungcanceralliance.org/
ROS-1変異を有するネット上のコミュニティ-The ROS1ders https://ros1cancer.com/
日本におけるアドボカシー領域の現状
一方、日本では、各地の患者会活動、日本肺がん患者連絡会の設立を果たしているものの、肺がん患者(これから罹患する患者も含め)への最新かつ正確な情報を入手し、発信するインフラの整備には及んでおらず、これには各種学会、各種企業等との連携はもちろんのこと、患者会、連絡会構成員の情報・知識のシステミックな最新情報の収集と学びの場が必要不可欠な状況である。
今後の課題
現在、肺がん領域における進歩は、これまでの薬剤投与の対象ではなく、特定の遺伝子変異を有する肺がんにより個別化が進み、同様に、それを対象とした臨床試験(治験)は、より複雑化し、対象も従来の臨床試験(治験)に比べ、著しく対象者が少なく、従来の方法では完遂に時間を要し、非効率なものとならざるを得ない。
この問題の改善、解消には、すなわちより良い、より早い肺がん医療の治療成績改善のためには、肺がん患者自身が最新で正確な情報を学び、入手し、それぞれの団体の活動、連絡会の活動を強固なものとし、医療者・臨床試験グループ・学会などとの連携が望まれている。
結語
現在、欧米を中心に患者中心の医療、患者が参画する医療が進み、日本においてもPPI(Patient and Public Involvement)の定義が定められている。https://www.amed.go.jp/ppi/teiginado.html
このような背景より、肺がん患者(サバイバー)自身が、肺がん、肺がん医療の進歩を学ぶことは、日本の肺がん医療の向上に不可欠であると思われ、本プログラムを企画した。